ノーベル賞との関わり

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1991年 ノーベル賞創設90周年プロジェクト

オリジナルテーブルウェア製作

1991年はノーベル賞創設90周年となる記念の年でした。更にノーベル財団のチェアマンが引退されることも節目として、晩餐会の会場も変更となりました。
これまでストックホルム市内のホテルで開催していた晩餐会を、この年からストックホルムのシティホール(市庁舎)で開催することになったのです。
これを機に、オリジナルデザインのテーブルウェアを新調することが決まりました。

なぜ日本のカトラリーメーカーである当社だったのか

きっかけはゴナ・セリン氏

3年前の1988年、プロジェクトがスタートしました。デザイナーもスウェーデン人、テーブルウェアの材料・メーカーもすべてスウェーデン製が大前提だったのこと。当時もスウェーデンには素晴らしいカトラリーメーカーはありましたが、規模が小さかった為に品質や数量面で対応が難しく、ヨーロッパを含めた海外メーカーも視野に入れて探していたそうです。キーパーソンとなったのが、プロジェクトのデザイン担当だったクリスタルデザイナーのゴナ・セリン氏。私は彼と古くから親交がありました。彼が「日本にヤマザキと言う良い洋食器を作っている会社がある」と推薦してくれたのです。これが「ノーベル財団」へカトラリーをお納めするに至ったきっかけです。

ゴナ・セリン氏との出会い

クリスタルガラスの老舗「Orrefors」社

ゴナ・セリン氏はスウェーデンの最高級クリスタルガラス製造会社である「Orrefors」の専属デザイナーとして国内外に活躍の場を広げ、スウェーデン王室にも自由に出入りができる程の人物でした。当社は1970年頃からこの「Orrefors」社と取引があり、親交を深めていました。1980年に米国に販売子会社を設立した当社は、ニューヨークの41 MadisonにあるショールームでThe New York Tabletop Showを定期的に開催していました。 そこにゴナ・セリン氏だけでなく、「Orrefors」社をはじめとする他のプロジェクトメンバーも何度も足を運ばれ、当社製品の良さを知っていてくれたのです。プロジェクトのカトラリー担当として「あのヤマザキなら」と賛成の声が多かった事を知って感激しました。

こだわり抜いたデザインとものづくり

「ノーベルオリジナルカトラリー」は北欧らしいデザイン。スウェーデンでは肉よりも魚を多く食べます。魚用のフォークとナイフは、金色に輝く鱗と緑の目をあしらった魚の姿がモチーフ。一般的にメインのカトラリーと同一のデザインを使用することが多い中、魚用カトラリーを際立たせたことにデザイナーのこだわりを感じました。

メインのカトラリーはシンプルでありながら厚みに変化を持たせてあります。その微妙なラインを表現するためには何度もプレス加工が必要となり、その影響で表面が荒れやすくなり、研磨してもピンホール(目立たないような小さな穴)が出て苦労しました。求められた水準は早い段階でクリアしていたのですが、「世界のどこにも負けない商品を作る」と言う当社の信念を貫きベストを求め続けました。結果、想像以上の仕上がりにゴナ・セリン氏は絶賛し、当社の品質の高さと再現力を再認識してくれました。

コミュニケーションの壁

この開発でもう一つ苦労した事はコミュニケーション。現在の様にe-mailなど全く無い時代、情報伝達の手段も限られていました。ゴナ・セリン氏は図面や手作りのモデルを何度も送ってくれ、私も試作品を持ってスウェーデンに年3~4回程度は出張しました。私が滞在する短い期間中に図面修正を間に合わせてくれ、帰国直後に修正したモデルが届くなど、互いに試作の回転スピードを大事にしました。私は世界の様々なデザイナーと仕事をしていますが、彼ほど「ものづくり」の造詣が深く、勘の鋭いデザイナーはなかなか出会えません。

1991年12月10日 ノーベル賞晩餐会 -記念すべき日-

オリジナルテーブルウェアがお披露目されるノーベル賞創設90周年記念晩餐会の日。プロジェクトチームや取材をしてくれたスウェーデンテレビの方々の推薦もあり、なんと私と家内もその晩餐会にご招待頂いたのです。1991年は歴代の受賞者も招待された特別な年でしたので、日本から過去の受賞者もたくさん参加されていました。歴代の受賞者の方々と大使館で朝と夜の食事を共にしたこと、忘れられません。特に1973年にノーベル物理学賞を受賞された江崎玲於奈さんと奥様には大変お世話になりました。

当日の晩餐会のテーブルは各賞ごとに配置され、私と家内の席は化学賞のテーブルでした。1テーブルは20名ぐらいの席で、各々の席には受賞者のお名前と受賞の理由が記載されていました。ノーベル賞を受賞していない私の箇所には何も記載されていません。隣り合った受賞者から、「あなたは何の研究で?」と聞かれて困りました。当日の晩餐会の最初のメニューはスープだったのですが、お皿に添えられたカトラリーを指さし「この金属洋食器を私が作りました」と答えると、テーブル全員の方が私の所に来て「この洋食器は大変素晴らしい」と声を掛けてくださったのです。嬉しかったですね。家内も「アジアの日本の小さな会社で作った洋食器が、この様な世界の頭脳が集まる晩餐会に使われて、自分の娘を世界に紹介するような気持ち」と涙していました。

スウェーデン シルヴィア王妃殿下に謁見

晩餐会の翌日、プロジェクトの他のメンバーと共に、シルヴィア王妃殿下に拝謁する名誉を賜りました。その際、ノーベルカトラリーセットを輪島の漆塗りで蒔絵を施した特別なケース入れて献上しました。殿下にはノーベルカトラリーセットを気に入って頂き、その場でご注文を頂いたのです。メーカーとして この上ない名誉を噛みしめました。

プロジェクトを振り返り

ノーベル賞創設90周年プロジェクトに参加できたことは、ものづくりへの真摯な姿勢、デザイン&マーケティングの考え方を評価されただけでなく、応援をしてくださる世界中の人々とのご縁を大切にして来た結果だと考えています。数年前、とあるテレビ番組の企画で テレビ局の方が「ノーベル財団」を訪問され、晩餐会について取材されました。財団の方が 年に一度の晩餐会の時に使用する洋食器を保管庫より取り出され、「これは日本製ですよ」と説明されている映像があったのです。現地でメンテナンスは施されていると思いますが、当社が納めた洋食器をまだ丁寧に使ってくださる事を知りました。ものづくりに賭けた人生が報われた瞬間でしたね。

※当社は現在、ノーベルデザインカトラリーの製造・販売は致しておりません。
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